松村– Author –
松村
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フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
1.空色の夢
まだ息子が清里聖ヨハネ保育園に通っていた頃、夕方お迎えにいったその足で、清泉寮のまわりに伸びる幾つものトレイルに、二人でよく歩きにいった。自然の気配に耳を澄ませながらほの明るい雑木林の中の小径を幼い息子とたどる一時は、実は父親の僕にと... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
2.麦穂の海の帆掛船
5月のある日のこと。七里岩ラインを抜けて韮崎へと向かう道の途中、いつものお気に入りの麦畑の横を通りがかった。刈り入れを間近に控えた麦の穂波が、もうすでにうっすらと色づき始めている。田んぼが主流のこの地域。麦畑はそう多くないので、麦の穂... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
3.月の入り
青空に浮かぶ昼の月を見るのが好きだ。夜明けとともに力を失って空の中に透けてしまいそうな月を見る時、僕はこの青一色で塗りつぶされた空間のむこうに、宇宙の存在を感じる。すると平面的に見えていた空が、にわかに立体的な深みを帯びて迫ってくるの... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
4.ふたり
清里聖ヨハネ保育園に通う息子の送迎の後にちょっとだけ森を散歩するのが、当時の日課となっていた。僕にとってこの時間は、何か新しいことに気づくとても大切な時間だったのだ。 この日、僕は道脇の草むらに咲いているアカツメクサに出会った。明治初... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
5.樹と語った日
大泉村1を東西に走る泉ラインのすぐ脇に、八右衛門湧水という湧き水がある。その傍らにひっそりとたたずむ大きなケヤキの樹が僕は大好きで、時々無性にこの樹に会いたくてたまらなくなる。この樹に触れていると、とても優しい気持ちになれるのだ。苔に覆... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
6.夏の日の記憶
「クレア、川に行こうか。」 僕は彼女を散歩に誘った。彼女といってもクレアは6月に我が家にやってきたばかりの、まだやんちゃ盛りの黒ラブなのだが。 廻り目平は金峰山への登山口としても知られるが、浅くてきれいな川は子どもの水遊びにも最適だ。こ... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
7.森の夜道で
「バサッ」 突然、視界をかすめるように何かが低空で横切り、闇の中に消えた。ほんの一瞬の出来事だった。 その日、ぼくは井富湖を抜けて甲斐大泉駅へと続く森の夜道を走っていた。このあたりは野鳥の観察地として知られているが、夜は夜で思いがけな... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
8.最初の秋を感じた日
9月の空は何と繊細な表情に満ちた空なのだろう。盛夏のあの焼けつくような陽射しがいつしか衰え、熱気の中にハッとするような涼風が混じるようになると、よどんでいた空の色は少しずつ、蒼さと純度を取り戻しはじめる。暑さが苦手なぼくは、毎年この小... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
9.ふるさとに咲く情熱の花
久しぶりに群馬の実家に帰った。標高1,200mに位置する草津町。その高台に建つ実家周辺で日常的に起こる出来事は、さすがに低地のそれとは趣が異なる。たとえば、すぐ裏の谷にはクマザサが群生していて、それをかき分けてカモシカが頻繁に上ってくるのだ... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
10.こころの手紙
「あのぉ、これは絵ですか、それとも写真ですか?」 個展で作品にしばらく見入っていた方が遠慮がちに尋ねてきた。 ぼくは写真を印画紙ではなく、表面に細かい凹凸を持つ画材紙をベースにしたモローという紙にプリントしている。PCM竹尾という紙の老...