7.森の夜道で

エッセイ_森の夜道での画像

 「バサッ」 突然、視界をかすめるように何かが低空で横切り、闇の中に消えた。ほんの一瞬の出来事だった。

 その日、ぼくは井富湖を抜けて甲斐大泉駅へと続く森の夜道を走っていた。このあたりは野鳥の観察地として知られているが、夜は夜で思いがけない動物に出くわすことが結構多いのだ。そういえば、いつだったか月の明るい冬の夜にうっすらと雪の積もったこの森の道で、突然出てきた大きな雄鹿とぶつかりそうになって肝を冷やしたこともあった。ぼくは速度を緩め、辺りを探るようにゆっくりと車を進めてみた。今フロントガラス越しに見たその主に、すぐまた会えるような気がしたのだ。

 果たしてその先の、道に倒れかかるように傾いた山桜の木の枝に、ヘッドライトに照らされた一羽のフクロウがこちらを向いて止まっていた。

 ずっとフクロウに会いたかった。でも、こんなに思いがけずその機会が来るとは…。
 「警戒しなくていいからね。頼むから、まだ逃げるなよ」なだめるようにフクロウを見つめながら、後部座席のカメラをそっと引き寄せた。


 ヘッドライトを受けてぼんやりと浮かび上がったフクロウの輪郭をとらえるには、オートフォーカスは全く無力だ。はやる気持ちを抑え、手に汗握りながら目測でピントを合わせ、祈るような気持ちで三枚のシャッターを切る。最後のシャッターを切った瞬間、森の狩人はふいに音もなく飛び立ち、再び夜陰に紛れていった。一気に緊張の解けたぼくも、ぐったりとシートに倒れ込む。辺りは何事もなかったかのように静まり返っていた。


 人間活動が自然環境に及ぼしてきた影響は計り知れない。しかし、気高くも脆い彼らが今この瞬間にも、この同じ時と空間を共有していることを知る時、それがどんなに貴いことであるかと思う。まだ間に合うかもしれない。そしてもうこれ以上、彼らを追いつめてはならない。切に、そう願う。
 

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