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フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
11.実りの秋に
清里の牧草地を縁取る雑木の木立ちに絡んでいるアケビが、実りの時期を迎えた。 メジロが群れをなしてやってきては、旺盛にアケビをつついている。小さな黒い種をいっぱい含んだ半透明の果肉がたちまち消えてしまうほどの食べっぷりだ。夜にはきっとヤ... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
12.心の耳で聴く
無意識に目を向けたら誰かと視線が合ってしまったという経験は、きっと誰にでもあると思うのだが、面白いことに動物との間にも、時折そういうことがあるのだ。たとえば霧の中を車で走っていてふと見たら、カラマツの木立の中から鹿の親子がこちらを見て... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
13.夜明け
時計の針が朝四時を回った。濃霧で何も見えないが、おそらく夜明けを迎えたのだろう。急に風が強くなってきた。耳元を風がびゅーびゅー音をたてて通り過ぎてゆく。七月だというのに気温が低い。停滞していた霧がゆっくりと動きだした。じっと目を凝らす... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
14.星野道夫さんのこと
人の生き方を根本から変えてしまうような出会いがある。運命とでも言えばいいのだろうか。ぼくにとって星野道夫さんとの出会いは、まさにそういう出会いだった。 アラスカの大自然に魅せられ、そこに生きる生命を愛し、失われゆく先住民族の神話に秘め... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
15.絆
北極圏アラスカに東西800キロにわたって横たわるブルックス山脈。その中ほどに、アナクトゥヴクパスという場所がある。急峻な山脈を東西に二分する広いU字谷にぽつんと存在するこの集落は、氷河の面影を色濃く残す緩やかな峠にあり、毎年春と秋の二度、... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
16.風の道
このトウヒの樹林帯を抜ければ、森林限界を超える。めざす氷河湖は、正面の岩山の左の切り立った岩壁に囲まれて、その姿を見せてくれるはずだ。ほっと一息ついているぼくの頬をなぜるように、風が通りすぎていった。 数日前、ぼくはブルックス山脈の懐... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
17.氷河湖
時を忘れて、この蒼く澄んだ湖水を見つめていた。何日も渓谷を遡り最後の岩壁を越え、ようやくたどり着いた目的の氷河湖。はるか遠くにそびえていたアリゲッチ針峰群のピークは今、すぐ目の前にある。静寂の世界がそこにあった。 はじめて訪れたこの場... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
18.極北の友
「あっ、こらっ!それは靴だ。かじるな!」 たとえ極北のフィールドに一人でいても、しゃべる機会は結構あるものだ。あたり一面の土の巣穴から出てくるホッキョクジリス。その愛くるしい姿とは裏腹に、彼らは油断できない存在だ。 ある日、川渡り用の... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
19.平和の虹
虹がもし天と地を結ぶ平和のかけ橋であるなら、両者の距離はぼくたちが想像しているほど、遠くはないのかもしれない。雲間からすっとさし降りたこの虹を見て、そう思った。 アラスカに滞在した二ヶ月ほどの時間の中で、一体いくつ虹を見ただろう。どん... -
フォトエッセイ『自然・生命を見つめて』
20.たき火の力
寒さで目が覚めた。シュラフの中から手を伸ばしテントを開けてみたら、信じられないほど鮮やかな光彩が、空いっぱいにあふれていた。天を仰いで思わずついたため息さえも光の粒子となって、空のグラデーションの中に溶けていってしまいそうな気がした。 ...